杉並切り裂きジャック 家庭環境及び成長過程





1 生活歴
(1)乳幼児期
 幼児期の少年には多動傾向、反抗傾向もなく、知能の発達もまずいい方で、近所の子供ともよく遊び、母親の供述では、幼児期に多の子供に乱暴したり、いじめたりすることなく、又小動物、昆虫等への嗜虐的傾向も見られなかった。
 父親は子煩悩で、子供の相手をするのを唯一無二の楽しみにしていて、やや甘やかして育てた傾向があり、躾の点では母親の方が口やかましかったという。
(2)小学校時代
 学習成績は1年から4年までは上の部、5、6年では中の部であった。高学年になるにつれて、算数、国語等の主要科目の成績が低下していることが注目される。
 学習態度はまじめで、自主性もあるが、温順、女性的で、積極性、迫力に欠け、内向的で、自己の意志をはっきり表明できない。協調性があり、友人に好かれているが、交友関係は少なく、どちらかというと目立たぬ存在であった。
(3)中学校時代
 出席の状況は良好であり、成績は全体としては上の下程度であり、理科、英語、図画、工作の成績は比較的よく、保健体育の成績が一貫して悪い。
 行動については、協調性、指導性に乏しく、非社交的で、友人との交渉も乏しく、いつも傍観的態度であり、クラブ活動は全くしなかった。
 学習態度は非常にまじめで熱心であったが、自ら発表することは少なく、決められた課題はこつこつと几帳面にやっていた。
 家庭では父親とは余り口をきかなかったが、積極的に反抗することはなく、母には、問われれば学校のことはよく話した。
(4)高校時代
 都立高校に入学している。
 高校入学は既に第一回の犯行後である。
 出席状況を見ると1年の時は風邪のための病欠2日、遅刻11回、2年の2学期までは、欠席1日、遅刻5回で、やや遅刻が多いが、まず普通の出席状況である。
 成績は、1年では中の下、2年でも中の下、得意科目は美術、不得意科目は、体育、物理、科学である。
 学校では、非行に類する行為はなく、女生徒の関心も全くなく、1年次の行動記録として「協調性に欠け、孤独である。判断の傾向としては自己中心的であり、情緒の傾向としては内向的で無口、学習態度は特に目立たず、課題はきちんとやってくる。交友関係は全くない」等であった。


2 生活歴における問題点
 勉強は高校入学を目指してかなり一生懸命勉強していたのに、入学以来、ともすれば勉学努力は怠りがちになり、このことでしばしば父に叱責されている。とくに一年の夏期休暇の際に学校で行われた特別補修授業には、7月下旬の前期は出席したが、8月の下旬の後期は両親に無断で出席せず、このことを叱った父に反抗して夜半自宅を飛び出し、小学校の校庭の小舎の中で一夜を明かして帰宅したことがあり、この時以来、父は少年に対して勉強を余り督励しなくなった。
3 日常の習慣と嗜好
 高校に入学した頃から食事の嗜好に著明な変化がみられ、これまで好きであったみそ汁、魚の刺身、塩焼き等、日本風の塩気のあるものを食べなくなった。この嗜好の変化はかなり著明なもので、父母の説得に応ぜず、その理由として、塩分の過剰摂取が胃癌の原因であるという医学者の説を照会した新聞記事をあげた。
 また、このころから食事の際に、自宅では箸や茶碗を用いずに、皿の上に洋食風にご飯を盛ってフォークで食べるようになってきた。更に食事の際に畳の上に座らず、独り椅子に腰掛け、従来用いていた座って食べる飯台が低くて不便であるとといって、戸棚に自分の食事をとりわけ、家族に背を向けて食べるようになった。ついに母親が見かねて、少年専用の食事用テーブルを買い与えたので、それからは独りで食べるようになった。この理由として、日本人の背が低いのは、すわる習慣があるからで、自分の身長を少しでも伸ばすために座らないのであると述べているが、これは単に、畳の上にすわるか、椅子に腰掛けるかだけの問題でなく、むしろ家族との会食の拒否の傾向につながるものと考えられる。 4 自閉、嫌人、孤立傾向
 小学校高学年の頃から、親しい友人はほとんどなかった。この傾向は中学入学以来特に顕著になり、高校入学後も、親しい友人はなく、それを寂しがることもなかった。自宅では、中学の頃まで、弟とよく話をし、それほど孤立していなかったが、高校入学の頃から、自宅でも家人との接触を積極的に避ける傾向が見られてきた。少年は高校に入学後は、2階6畳の間1室を与えられ、自宅にいるときはほとんど自室に閉じこもって過ごすようになった。
 高校2年生の秋、逮捕数ヶ月前からは食事も、自分の分だけ、自室に持っていき独りで食べるようになった。家人が自分の部屋にはいるのを極端に嫌い、部屋の掃除も全部自分でやり、母が布団の始末をするために部屋にはいると非常に不機嫌になり、入り口のドアに「やたらに開けるな」と書いた張り紙を貼ったりし、また、自分の持ち物に触れられることを嫌がった。
5 家族、特に両親に対する態度
 少年は、もともと内向的な性格であったが、高校入学までは、両親には従順であり、学校での出来事などをよく話していた。父は、子煩悩で少年を甘やかす傾向があり、休日には皆で遊園地に行ったり、映画を見に行ったりして遊び、勉強も丁寧に教えていたという。
 ところが高校入学の前後から、少しずつ、少年の両親に対する態度に変化が見られた。まず父とは余り話をしなくなり、父が話しかけても返事をせず、父が来ると、母と弟との話をやめ、テレビを父が見ようとすると、わざとその前に座り込み見せないようにし父に消極的な犯行の態度をとるようになった。一方、母に対しても父と対するほど拒絶的ではなかったが、やはり話は少なくなり、高校2年生になってから機嫌が悪くなると母と口を利かず、用件を紙に書いて渡したり、又、父兄に見せなければならない調査や成績物などを見せずに提出したことなどがあり、家族との間に疎通性は次第に少なくなっていたようである。両親の指示をも無視し、気に入らぬことがあると、いきなり障子を破いたり、テレビを見ている母を殴ったりすることがときにあったという。
6 身長の低いことについての劣等感
 少年の身長は、161センチメートルで、日本の同年齢の男性としてはやや低い方に属するが、異常に低い程度ではない。しかし、少年は、かねてからこのことを気にし、その責任の一半を、父が背の低いことによる遺伝負因に帰し、父を責めたことがあり、また、身長を伸ばそうと努力した。たとえば、雑誌の広告で知った「身長機」と称するかなり高価な一種の機械体操器具を母に頼んで購入したり、身長を伸ばす効果をうたったカルシウム等を主剤とする市販の売薬を購入し、自室で毎日一定時間、これを用いたりした。





参考文献
日本の精神鑑定」  みすず書房
迷宮入り事件と戦後犯罪」 鎌田忠良 王国社
犯罪の昭和史―読本 (3)」 作品社




事件経過     犯人が送った脅迫文     精神鑑定



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