(1)小松川女子高校生殺し事件の動機、背景を考える
小松川高校殺人事件の少年は、知能指数が高く、古典文学を愛し、中学時代には、生徒会委員長に選出されたり、弁論大会で入賞したりと優秀な生徒であった。
しかし韓国人として貧しい家に生まれ、同級生から差別的な扱いを受けてきて、優秀な成績であるにもかかわらず中学卒業時には就職は難航を極め、何度も面接で落とされやっと旋盤見習いとして就職が決まっている。
非行についても中学3年生時に先生の持ち物を万引き、就職後は、他人の家で現金を盗んだり、自転車を盗んだり、図書館で本を盗んだりと非行を重ね、さらには工場の経営者の娘にいきなり抱きつき、クビになった経験も持った。
少年が、女性2名を殺害するに至った原因は、本人の供述からもはっきりしないが、東京工業大学宮城音弥氏が昭和33年当時次のように分析している。
「自分の犯行だと主張するためには電話をかけた点など、自己を誇示しようという"顕揚欲"の現れともいえるが、むしろ"情性欠如性格"と思われる。この性格は同情や、しゅう恥心、後悔、良心などが欠けているもので、本人には、相当以前から、このような性格異常があった。この犯罪の原因も、テレビや小説の影響などにより性格的なものが根本だろう。
ではなぜ異常性格になったかといえば、先天的な原因のほか、環境がある。まず犯罪の多い家に育ったこと。民族的なしこりも相当深かったのではないだろうか。中学校のとき"奴隷解放"の題で弁論大会に出たことは、この劣等感を裏付けているかもしれない。しかも一方に、自分の頭脳は優れているという自覚があれば、緊張も高まるわけだ。いわば、心の中に感情のうっ血が高まる。
この高まった緊張が、何かのチャンスで表面化する場合が多い。それはとくに攻撃的な形で現れる。通常だと、良心とか、自分が損をするだろうなどと考えてブレーキがかかったり、または内面化するのだが。
攻撃が犯罪として表面化するには
○先天的素質
○青春期にあること
○社会的条件
などがある。
社会的条件とは、たとえば暴行が横行する世相というような意味で、これらの3つがミックスしている場合も、またどれかがとくに強く働いている場合もある。このようなコンプレックス、緊張、暴力的傾向からいって、殺すために殺したのではないだろうか。
また本人は、フィクションの世界で満足できない性格らしい。普通ならば、テレビだとかスリラー小説で満足するのだが、感情のうっ血と性格異常のために、凶行に出たのではないか」(「週刊朝日の昭和史第3巻」から引用)
(2)「新聞をみると案の定・・・のことが報じてあった」
こんどの小松川女子高校殺しの犯人は4月にも東京小岩のたんぼ道ですれ違った帰宅途中の女工員田中せつ子さんを発作的に絞殺した疑いが強い。彼の「随想録」と称する日記帳には「新聞をみると案の定、田中せつ子さんのことが報じてあった。現場は自宅から百メートルと離れていない」などと書いてある。自分のやったことの反響に興味を抱いているが、犯した罪の恐ろしさには悶々とした様子など少しも見あたらない。当局の捜査が行き悩んでいるとみると「おれは完全犯罪をやった」と電話で捜査陣をあざ笑うといった調子だ。常識では想像できないような彼らの心理や行動の裏には何かが欠けている。「一種の道徳不感症が高校生犯罪の共通性となっているようだ」と当局も指摘している。
(昭和33年9月3日 毎日新聞 引用)
少年犯罪データベース
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